第1部○セッション                         

外国における演劇教育研究◇趣旨

 今回われわれが「大学における」演劇教育の「研究」を課題としたのは、その重要性を認識してのことであり、そのような研究が日本においては未発達であることに問題意識をもったためでもある。日本においても演劇教育についての議論はあり、研究と呼びうる仕事の蓄積もある。しかしそれは初等、中等教育における実践を対象にしたものであって、こと高等教育となると事情がちがってくる。大学などにおいても演劇の(あるいは演劇的な)教育は実践されているが、それらに研究的な眼差しが注がれることは、これまでおよそなかったのである。

 では、海外ではどうなのか。大学における演劇教育の問題が、演劇研究者全般に共有された関心事項であり続けているアメリカのような国もある。その研究をめぐる意識、問題設定、方法論、教育実践との関係などを、類縁領域(パフォーマンス・スタディーズ等)の事例も参照しつつ検討する。(熊谷)

第2部○セッション

大学における「演劇的手法による教育」と「演劇的実践の教育」◇趣旨

 昨年度の研究集会における、後期中等教育での演劇(的)教育実践のセッションでは、人間形成の手段としての演劇教育について議論された。今回は高等教育(大学)に関して、より特化した目的意識を持つ演劇教育ないし演劇的手法による教育をとりあげ、その見学会・参加体験を踏まえた報告と議論の場をもちたい。

part1「演劇的手法による教育」では日大文理学部における渡部淳氏の教職課程科目について宮崎充治氏が報告する。ここでは、「獲得型の授業」のためにどのように演劇的表現が用いられうるかをめぐって議論したい。

part2「演劇的実践の教育」では、日大芸術学部演劇学科における熊谷保宏氏の授業について、「ワークショップ(“写真集をつくろう”)がもつ教育効果」「物語の共同構築と教育の臨床性」といった論点を中心に、秋葉昌樹氏による報告を受けて議論を深めたい。(山下)


第3部○討論

◇これからの演劇教育◇趣旨

 大学が設置する専門科目の演劇授業は、<実習系>と<理論系>と実習を少し織り交ぜた<実践系>にわかれているように思われる。さらにこの他に大学の演劇教育には、演劇専門でない一般教養と言われる科目の中の、演劇概論、演劇入門、といった教養としての科目の授業があり、そして、語学教員が行う、例えば、アメリカ演劇、ドイツ演劇といった、戯曲や演劇論を原書で読む演劇授業もある。私個人の例で言えば、文芸学部芸術学科の演劇芸能専攻を設置している大学に居て、そして他に非常勤講師として他大学へ行って座学で演劇を教えている。演劇を専門的に学びに来ている学生に教えるのと、演劇を専門的に学びに来ているわけではない学生に演劇を教える。学生に違いがあるが演劇を教える。

 実技(実習)で教えることと、教養としての演劇を座学(理論)で教える違いはあるが、そしてまた、学生の反応にも違いがあるが、主に二つの違いから、演劇は教えられるものではないのではないか? 演劇を教えるのではなく演劇で教えるということや、演劇的手法と言う時の演劇の危うさ、などを含めて、これからの演劇教育の問題点を見つめて、問題提起を試みたい。(菊川)