2006年度 秋の研究集会  「古典芸能、継承と創造」
11月11日(土) 会場:国立文楽劇場      
 10:30‐ 受付開始       〔1F ロビー〕
 11:00‐ 文楽鑑賞   
  国立文楽劇場11月公演 昼の部『心中天綱島』  
   近松門左衛門が享保5年(1720)に書き下ろした「心中天の網島」が改作を経ながら、今日も人気の作品として上演されています。
       大坂天満の紙屋治兵衛は妻子のある身ながら、曽根崎新地の遊女紀伊国屋小春と深く馴染み、二人は心中の約束までしてしまいます。治兵衛の兄・粉屋の孫右衛門の忠告、治兵衛の妻・おさんと小春の女同士の義理の立てあいを中心に、おさんの両親と治兵衛の関係、幼い子供たちとの関係など、当時の家族の問題が複雑に絡みます。心中道行で美しく小春・治兵衛の愛を歌い上げても、その裏に未解決のまま残る家庭の悲劇。古典としての評価を離れて、今日的な視点で評価すれば、どのようになるのでしょうか。今回の研究集会のテーマ「古典芸能、継承と創造」を考えるにもふさわしい作品と思われます。
 14:50 〔終演後〕 バックステージツアー  
       文楽鑑賞のあと、国立文楽劇場のご好意により、舞台裏等の見学を行う予定です。公演中ですので、見られない所もありますが、逆に公演中ですので実際の舞台裏を見学していただけるところもあります。ご期待ください。
 16:00‐17:00 対談  〔国立文楽劇場準備室〕
  国立文楽劇場の歩みと今後の問題  
  農端徹也(国立文楽劇場企画制作課専門員)× 荻田清(梅花女子大学) 
     劇場内準備室をお借りして、企画制作課専門員・農端徹也氏にお話を伺います。農端氏は昭和52年に文楽協会に入られ、国立文楽劇場創設に伴いそのまま移り、平成2年から7年度まで企画制作に従事され、その後東京の国立劇場に転勤、平成11年11月に大阪に戻られ、平成14年7月から企画制作に復帰されて今日に至っております。朝日座時代からの文楽を内側から見続けて来られた方です。
       劇場組織の現状、現在の演目・配役決定の仕組み、観客の嗜好と技芸伝承のための演目選び、その他さしさわりのない範囲で内部のお話を伺います。
 17:00‐ 懇親会会場へ移動(道頓堀界隈散策)      
 18:00‐ 懇親会 〔大阪なんばワシントンホテルプラザ(1F チャイナテーブル)〕
11月12日(日) 会場:大阪大学中之島センター      
   9:30‐ 受付開始       〔佐治敬三メモリアルホール前(10F)〕
 10:00‐12:00 研究発表          
  分科会A 〔佐治敬三メモリアルホール(10F)〕 分科会B   〔講義室3(7F)〕
  《研究集会テーマ》発表要旨 《自由テーマ》発表要旨
  司会:岩井眞實(福岡女学院大学) 司会:三上雅子(大阪市立大学)
 〔10:00‐〕 新作組踊:琉球古典演劇の境界を越えて 横浜居留地におけるオペレッタ受容―オッフェンバックとそのライヴァルを中心に―
  マンマナ・フランセス(琉球大学研究生)
          森佳子(日本大学[非常勤])
 〔10:40‐〕 「研辰」の系譜 「ポートフォリオBUTOH」構築の試みについて
    出口逸平(大阪芸術大学)   小菅隼人(慶應義塾大学)
 〔11:20‐〕 近松の継承と創造―「南条好輝の近松二十四番勝負」― ジョージ・タボーリ・アーカイヴ資料にみる『記念日』の創作過程―反ユダヤ主義に対するアイデンティティー・バランスの模索―
  水田かや乃(園田学園女子大学近松研究所)
   
          山下純照(千葉商科大学)
 12:00‐ 昼食        
 13:00‐13:50 講演  〔佐治敬三メモリアルホール(10F)〕
  「異物」としての能―明治大正期の「改良」論争にみる能の継承と再生―
  天野文雄(大阪大学)  
       古典劇としての能の継承と再生の問題を考えるには、能がおかれている現状の分析ももちろん有効であろうが、状況把握があるていど客観的になしうる過去の事例の分析はそれに劣らず有効であろう。その場合の過去としては、能の存在が自明であった維新以前より、西洋文明の流入によって、能が「異物」として強く自覚された維新以後のほうが、能の古典劇としての継承と再生の問題を考えるのに適していよう。現在の能をとりまく文化的環境は基本的に維新以後と同質とみなせるからである。その維新以後の能にかかわる事例のうち、ここでとりあげてみたいのは、明治末年から大正期に、池内信嘉、坪内逍遥、久米邦武、坂元雪鳥、山崎楽堂らによって戦わされた能楽改良論争である。そこでは、具体的には、舞事、詞章、アイ(アイ狂言)、舞台構造、上演時間(その短縮)などが論議の対象となっていて、能をかならずしも「異物」としなくなっている現代のわれわれを驚かせるが、そこにはまた能を時代の変化とどのように調和させてゆくかという、現代のわれわれが直面している課題が鮮明に提示されてもいるのである。
 14:00‐15:00 招待講演  〔佐治敬三メモリアルホール(10F)〕
  伎楽の日本伝来―<桜井>を考える  
  李應壽(世宗大学)  
       韓国と日本の演劇交流は、伎楽に始まるといわれているが、それは、「又百済人味摩之、歸化けり。曰はく、<呉に學びて、伎樂の儛を得たり>といふ。則ち櫻井に安置らしめて、少年を集へて、伎樂の儛を習はしむ。」という、『日本書紀』612年(推古天皇20年)の記録によるものである。
 この記録を考証するにあたって、安田與重郎(1910−81)は、@土地台帳に「土舞台」という字が存在する、A『聖徳太子伝略』の記録、B聖徳太子誕生地の「上宮」に近接している、との理由をあげ、現在の奈良県桜井市にある児童公園あたりが、伎楽の伝来地の<桜井>であると断定した。
 しかし私の調べでは、むしろ、奈良県高市郡明日香村豊浦にある向原寺か、和田廃寺近辺を、<桜井>にあてはめることができた。それは、安田の主張が中世をさかのぼらないからであり、それに、それ以前の記録の『催馬楽』、『元興寺縁起』を始め、当時の勢力分布、最近の発掘調査などを照らし合わせた結果、そのように思われたからである。
 今回の講演では、それを論じ、両国の演劇交流の始原地を明らかにしてみたい。
 15:10‐16:50 シンポジウム  〔佐治敬三メモリアルホール(10F)〕
  歌舞伎における継承と創造―古典の復活狂言の問題など―  
  中川芳三(松竹顧問)× 藤井康生(関西外国語大学)× 権藤芳一(演劇評論家)
  聞き手:林公子(近畿大学)  
       歌舞伎は、今日では古典芸能であるが、同時に、2000人規模の劇場で25日間の興行をほぼ毎月行い、収益を上げている興行材でもある。言うまでもなく、演劇の作品は「いま、ここで」しか行われ得ないものであり、作品を上演することは、すべからく創造活動であるのだが、古典芸能でかつ興行材である今日の歌舞伎にとって、古典芸能としての継承と、「いま、ここに」舞台を創造することは、まさに伝統芸能としての歌舞伎の存在の核心に位置している。
 今回のシンポジウムでは、40年余に渡って、松竹のプロデューサーとして歌舞伎の制作を担うと同時に、奈河彰輔の名で古典復活狂言の脚本・演出を数多く手がけられ、継承と創造の舞台を創ってこられた、松竹演劇部顧問中川芳三氏を招き、歌舞伎における「継承と創造」の問題に迫りたい。
 16:50‐ 閉会挨拶        
 *11月12日のプログラムは、大阪大学文学研究科演劇学研究室との共催企画です。