2024年度日本演劇学会全国大会を振り返って
公開日:2024-10-15 / 更新日:2024-10-15
井上優(明治大学文学部)
2024年度の演劇学会全国大会は、明治大学駿河台キャンパスを会場として「暴力・抑圧・緩和 Violence / Oppression / Relief」という大会テーマのもと、6月8日(土)9日(日)に開催された。会場が東京駅から5分という地の利の良さもあったかと思うが、合計187名の方にお越しいただき、盛況裡に終えることができた。
開催校企画としてのシンポジウムを2本、講演1本、会員からの応募のパネルセッションが3本、10名の方の個人研究発表が展開した。大会自体は、規模的にも大きすぎず小さすぎずという形の収まり方ができたように思う。
「暴力・抑圧・緩和 Violence / Oppression / Relief」という大会テーマに直接即したものは、実質的に開催校企画のみであり、その点のみが残念なところであったが、海外で展開する複数の(!)紛争が収束を見せることなく拡大の一途をたどっている状況下、つかみどころのない言い知れぬ脅威に常時さらされているという意味では、大会の参加者に想いとしては共有されていたのではないかと思う。すべての演劇が、現在、何らかの脅威と隣り合わせであるのだ。
上述した、大会テーマに直接かかわる、開催校企画の3本、基調講演の明治大学文学部教授の合田正人氏(哲学)による「哲学もしくは戦争(ポレモス)のドラマトゥルギー ― ベケット/アドルノ、ジュネ/サルトル、そして ―」、パネルディスカッション「パレスチナ/イスラエル、暴力と抑圧、そして演劇」(渡辺真帆、村井華代、大林のり子)とシンポジウム「浮世絵と芸能に見る明治 ―― 描かれた「戦争」と「文化」をめぐって」(村瀬可奈、神山彰、伊藤真紀)は、それぞれ学会紀要に詳細が掲載される予定であるため、内容には立ち入らないが、開催校側の実感としては、どれも多くの聴衆の関心を引き付ける魅力的なものであったと思う。現在のものであれ過去の事例であれ、今回のテーマの持つ普遍性を改めて感じさせられた。関心のある方は是非紀要をご覧いただきたい。惜しむらくは、当日は、どのセッションもフロアからの声を聴く時間を十分に確保できなかったことである。どれも議論を呼ぶに足る(呼ぶべき)内容であっただけに、惜しむ声を筆者も直接耳にした。
また、築地小劇場開場100周年の年ということもあって、応募パネルにも個人発表にもこのテーマに関連したものあったのは特筆すべきであったろう。もしかしたら、この件に関わる大会テーマを期待されていた向きもあったかもしれないが、全国大会という性格上、絞り切ったテーマは望ましくはないということもあり、議論の俎上には登らなかった。もちろん、実行委員側がこのテーマを軽く見たということではなく、他の場での議論を期待してのことという点は付記しておきたい。実際、この大会の中でも十分に活発な議論が展開されていたように思う。
本大会が無事に開催できたのは、明治大学の各部署の皆様、学会事務局、そして何より、手厚くサポートをしてくれた学生の皆さんの力があってのことと思う。通り一遍の言い方になるが、厚くお礼を申し上げたい。
そしてもちろん、ご参加いただいたすべての皆様にも感謝の気持ちをお伝えしたい。