2026年度 研究集会のお知らせ【第一報】
公開日:2025-10-29 / 更新日:2025-10-29

2026年秋の研究集会
成城大学
開催予定日 2026年10月17日(土)・18日(日)
集会テーマ:オブジェクトシアター/人形劇と「ポストヒューマン」
人形やオブジェクトは、演劇における重要な表現手段として古代から現代に至るまで多様な形で展開されてきた。コロナ禍を経て存続の危機に直面しつつも日本全国に存在する多様な人形芝居はもちろんのこと、国内外における現代人形劇は、人間と物の関係を改めて問い直し、私たちの演劇的想像力に新たな刺激を与えている。近年、ニューマテリアリズムの隆盛と共にオブジェクトシアターも新たな展開を迎えている。社会との関わりにおいては、幅広い年代に受け入れられる人形劇には教育や医療ケアなど包摂的な役割がある一方、第三帝国や大日本帝国で見られたようにプロパガンダとしての利用も起きた。こうした背景を踏まえつつ、人形と物の演劇的可能性を多角的に探求する機会としたい。
こうした方向性をさらに力強く押し広げる契機となるのがポストヒューマンの概念である。それは一面で人形劇/オブジェクトシアターの考察を深い基盤から捉えなおすことを可能にする。たとえばモノの能動性という概念が考えられる。人形やオブジェクトは従来、人間の操作を受ける受動的存在とされてきたが、ポストヒューマンの理論では物質そのものに能動性があると考えられる。人形劇研究において、人形は単なる道具ではなく、独自の存在論的地位を持つアクターとして再概念化されうる。操演者と人形の関係は支配-被支配ではなく、相互作用的な共演関係として理解されるだろう。
とともに、ポストヒューマンの概念はより広い演劇的現象にも結びつく。たとえば、身体性の再考の観点がある。従来の演劇における人間の身体を中心とした表現から、テクノロジーとの融合や拡張された身体性への探求が生まれている。パフォーマーがデジタル技術、プロジェクション、ウェアラブルデバイスなどと一体化することで、人間の限界を超えた表現が可能になっているからである。さらに、主体性の脱中心化という観点からも、人間を唯一の行為主体とする西洋演劇の伝統に疑問を投げかける。動物、植物、機械、環境そのものが演劇的な「アクター」として捉えられ、よりエコロジカルで包括的な演劇観の可能性が考えられる。カレン・バラードの撹乱的リアリズムや物質的フェミニズムの視点も、人形の「もの性」と「生命性」の境界を問い直すのに役立つかもしれない。
また、AI、ロボティクス、VR/ARなどの技術が単なる道具ではなく、創造的なパートナーとして演劇制作に参加する新しい形態が探求される。人間とAIの協働による即興演劇や、観客の生体データに反応するインタラクティブな作品などが構想される。引いては、デジタル技術により、従来の劇場の物理的制約を超えた新しい時空間での演劇体験が可能になり、リモート参加や複数の現実レイヤーが重なり合う作品が制作されているだろう。
以上の潮流に対し、学際的なスタンスから、哲学、科学技術研究、環境学などとの対話を深めながら、新しい演劇理論と実践を構築する可能性が見込まれる。
もちろん、これ以外のテーマでの発表も歓迎する。ぜひ多くの研究発表、パネルディスカッションの応募をお待ちしている。
2026年日本演劇学会研究集会実行委員会
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