日本演劇学会
会長挨拶  

 今年度は、新型コロナウイルス感染拡大のため、例年6月に開催しておりました全国大会をやむなく中止せざるを得ませんでした。長く準備を頂いていた名城大学と岩井眞實先生にはこの場をお借りして、改めましてお礼を申し上げさせて頂きます。本来でしたら総会は全国大会時に開催し、年度の議事の承認を頂くのですが、6月の段階では総会を開催することは現実的には不可能で、この度はこのような郵送での開催をさせて頂くことに致しました。

 この度、2020−21年度理事選出を経て、引き続き会長を拝命いたしました。私どものような非力な者が代表を務めさせて頂くのは誠に荷の重いことでございますが、大変光栄なことと存じますし、皆様のお力をお借りしながらであれば、前に進めてもいけるのではないかと思い、お引き受けさせて頂きました。微力ではございますが、日本演劇学会の充実と日本の演劇研究の一層の向上にいくらかでも貢献できたらと思っております。

 この間、学会の組織運営に関わらせて頂いておりまして、いくつか思うところもあり、この機会に述べさせて頂きます。皆様の研究は個別には深化と拡大を遂げており、日々非常に頼もしく感じております。ですが、日本の人文学研究全般の中で演劇学、演劇研究はまだまだその存在感を十全には示せてはおりませんし、またその相応の重要性はまだまだ理解されていないのではないかと思っております。演劇の実践については変わらず活発に行われておりますが、演劇研究は今以上に発展の余地があろうかと存じます。他の人文諸科学への影響についてもこれからさらに期待がされるところです。海外の最新の演劇研究の成果を取り入れつつ、日本の演劇研究を世界に発信して行きたいと願っております。

 周囲には演劇や演劇研究に関心のある他領域の研究者や大学院生が少なからずいらっしゃいますが、そのような方々の関心を学会の活動と結びつけるというところまでは至っていないのではないかと感じております。学会の会員は、会友の皆さんを含めまして、約600名でずっと現状維持、減りもせず、増えるということもございません。しかしそういった現状を考えますと、その意味でも一層の充実が考えられるかと思っております。

 むろん演劇研究の活性化のために、学会でも様々な取り組みを行って参りました。紀要の年2回刊行維持、大会と研究集会の年間2回の会議開催、紀要の電子化、英文紀要の刊行、河竹賞奨励賞の設置など、多様化する演劇研究に向き合えるよう取り組んで参りました。その一方で学会の仕事が徐々に増え多岐にも渡るようになり、組織のあり方も少しずつ改善が求められて参りました。昨年度にはそれまであった「幹事会」を廃して「企画運営委員会」に再編成を致しました。学会はボランティアベースでお力を結集するやり方で進めて来ておりますが、一層の組織運営上の機能性が必要かと思っており、今期は組織再編を検討し、実施していくワーキング・グループを設置することとしております。

 新型コロナウイルスの感染拡大の今後の見通しはまだまだ立たない状況のようです。薬剤もなく、ワクチンも未だ開発途上とのことで、以前のような生活は見通せない日々が続くと思います。しかし学術研究は、どのような状況下でもそれなりの方法を取って絶やすことなく進めて行くことができます。同じようなことはできなくても違うようにできることを見出していくことが今は必要と思われます。11月に京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)での研究集会は、このようなコロナ禍の状況を勘案し、オンラインを軸にした開催を計画しております。11月の研究集会につきましては、どのようなことがあろうとも開催を致します。

 今期も皆様と一緒に演劇研究の一層の深化と拡大に向けて努めて参りたいと思いますので、なにとぞよろしくお願いします。

2020年6月12日

日本演劇学会会長 永田靖

 【重要】2020年度総会の開催について