西洋比較演劇研究会 2025年1月(第239回)例会のご案内 | 日本演劇学会

西洋比較演劇研究会

研究会からのお知らせ

西洋比較演劇研究会 2025年1月(第239回)例会のご案内

公開日:2025-01-09 / 更新日:2025-01-09

本年度最後の研究会です。上演芸術への新しい視角、そして関心はありながらも糸口が難しい問題への意欲的な研究発表が待っています。久しぶりに懇親会も設けたいと思っていますので、ぜひお越しください。

  • 日時:2025年1月11日(土) 14:00~18:00
  • 会場:成城大学8号館2F 822教室
    • 対面開催とZoomの併用となります。リンクは前日までに配信いたします。
    • 非会員でオンライン参加を希望する方は1月9日までに簡単な自己紹介を添えて事務局(山下 y3yamash★seijo.ac.jp)までお知らせください。※★をアットマークに換えてご送信ください。
    • 研究会終了後、会費制の懇親会を予定しています。会費は最大で3000円の見込みです。

研究発表

  1. 塚本知佳 「演劇的想像力によるネットワークの可能性について――宮城聰演劇における方法論と思想からの考察」
  2. 新田孝行 「現代のオペラ上演における演技の問題」

要旨

塚本知佳 「演劇的想像力によるネットワークの可能性について――宮城聰演劇における方法論と思想からの考察」

 2024年度日本演劇学会秋の研究集会におけるパネルセッション「演劇とエコロジー―歴史的視座から」(発表者:柴田隆子・三井武人・小田幸子)や「オブジェクトシアターの変遷と人形劇史的意義」(山口遥子)にみられるように、近年、エコロジーやポストヒューマニズムという概念と呼応し、舞台芸術において人間を自明の中心としない世界の捉え方、その考察や実践が盛んに行われはじめている。そこにあるのは従来のツリー型からリゾーム型への世界の変更であろう。本発表では演出家・宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)の作品から、演劇的な想像力を通じて社会におけるリゾーム的なネットワークの創造可能性を考察したい。そこで本発表では初期の代表作『王女メデイア』における宮城演出の代名詞である1つの役をムーバー(動き手)とスピーカー(語り手)とに分けて演じる言動分離(二人一役)手法、2011年『グリム童話』で提唱された「弱い演劇」、2017年『アンティゴネ』で描かれた悉皆成仏的な世界観、2022年『ギルガメシュ叙事詩』で示されたエコロジー思想の4点を中心に取り上げる。その際、次の3つの概念を取り上げて、思考の補助線としたい。國分功一郎の「中動態」概念における「する/される」の相対化。ブルーノ・ラトゥールの「アクターズ・ネットワーク・セオリー」における分散した「アクタント」。ギュンター・ヘーグの「越境文化演劇」概念における「文化」の非本質化。これらを通じて、演劇におけるネットワーク的想像力が、強さ/弱さ、能動/受動、生/死、男/女、人間/非人間といった諸々の二項対立を超える可能性を探りたい。

新田孝行 「現代のオペラ上演における演技の問題」

 演出家が主導権を握る現代のオペラ上演は様々なレヴェルで演劇的な質を向上させ、「現代演劇」に近づく一方、演劇とは異なるオペラの慣習と衝突し摩擦を引き起こしてもいる。こうした摩擦は演技や演者の身体に関して最も顕著となる。本発表では、オペラ歌手の俳優としての側面を歴史的に振り返ったうえで、以下の3つの問題を提起する。

1 歌手の受難

 主役級のスターであれ合唱団のメンバーであれ、現代のオペラ歌手は演出家が指示する複雑で高度な演技を求められるようになった。オペラの一つの起源としてのオルフェウス神話に由来する、最終的には運命に従属する登場人物の受動性が、演出家の指示に忠実に従って演じる歌手の受動性によって上書きされる。歌手はプロのダンサーとともに踊ったり、肉体的に過酷な演技を余儀なくされることもあれば、歌う美術装置となったり、演出家の解釈を伝える記号と化した不自由かつ説明的な演技をさせられる場合もある。

2 黙役

 現代のオペラ上演では台本上は存在しない人物が頻繁に付け加えられる。演じる俳優は歌わない黙役である。グラントペラのバレエ場面などに登場するダンサー同様、黙役は演出家が原作とは異なる物語を語る際その手段に用いられ、ト書きや歌詞として書かれていない過去の出来事や人物の夢、妄想を可視化したり、主人公の分身となったり、実在の人物の扮装をして歴史的な事実を指し示したりする。黙役は映像を通して上演に加わることもある。

3 嘘の衰退

 オペラでは舞台上に立つ歌手=俳優がたとえ役柄に相応しくない容姿であっても観客はその役柄の人物として受け容れる。この慣習的なフィクションは人物の設定を演出上変更するうえで利点となるが、昨今の「現代演劇」化したオペラでは制作者側がこれを放棄し、ある種のリアリズムを打ち出すケース、例えば白人の役を歌う黒人歌手がもはや「白人の体で」演じるのではなく、演出家によって黒人として解釈された人物を演じる黒人として存在する公演もある。

発表者プロフィール

  • 塚本知佳
    • 日本大学芸術学部非常勤講師。演劇批評。国際演劇評論家協会[AICT]日本センター事務局長。共著に『宮城聰の演劇世界―孤独と向き合う力』(青弓社)。
  • 新田孝行
    • 早稲田大学オペラ/音楽劇研究所招聘研究員。主な論文に「ポストモダンのオルフェウスーーステファン・ヘアハイムのオペラ演出について(『美学』、2016年)、「現代オペラ演出、あるいはニュー・ミュコロジーの劇場ーーローレンス・クレイマーの音楽解釈学再考」(『音楽学』、2017年)、「オペラと反実仮想ーー声、ストーリーテリング、パフォーマンス」(『表象』、2023年)。

お詫び:担当者のミスにより掲載が直前になってしまい、関係する会員・非会員の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ございませんでした。

  • 西洋比較演劇研究会

  • 基本的に西洋演劇研究を軸としつつも、比較の観点から広く演劇現象全般を見渡すという姿勢を貫いています。国際的な意識を持って活動する国内・国外の演劇人・研究者たちを招いて、意見交換をする場も設けています。

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