西洋比較演劇研究会 2025年7月19日(第242回)例会のご案内 | 日本演劇学会

西洋比較演劇研究会

研究会からのお知らせ

西洋比較演劇研究会 2025年7月19日(第242回)例会のご案内

公開日:2025-07-07 / 更新日:2025-07-07

早くも梅雨明けの気配、気の早い蝉の声が聞かれるこのごろです。若手・中堅の意欲的な発表に、ぜひご参集ください!

プログラム

  • 日時:2025年7月19日(土)14:00-18:00
  • 会場:成城大学 8号館2F 821 教室(オンライン併設:zoomリンクを前日までに送信)
  • 研究発表
    • 上田恒友「ソレルの演劇観ーーコルネイユ的価値の検討」
    • 新沼智之「19世紀ドイツ演劇におけるマイニンゲン劇団の伝統と新しさ」

発表要旨

上田恒友「ソレルの演劇観ーーコルネイユ的価値の検討」

 本報告はジョルジュ・ソレル(1847-1922)にみられる叙事詩/悲劇的世界像についての理解の増進を期し、その演劇観におけるピエール・コルネイユの位置付けを論じるものである。
 従来ソレルは社会主義思想家としての側面が注目されてきた。しかし彼は同時代における情勢に対峙するなかで政治的姿勢を著しく変転させた人物であり、社会主義的傾向を軸として彼の著作群を体系的・経時的に説明する試みは限界を有したといえる。これに対し本報告では、ソレル思想の核心を彼特有の叙事詩/悲劇観に由来するペシミスム的世界像の次元に見出す。当該世界像は人間各人と世界全体の自然的調和を否定し、外形的な秩序による拘束を要請するものであって、ここでは個人的な確信としての道徳と共同体的な規範としての法との緊張関係が描出されることとなる。このとき社会主義的言説は、道徳と法の悲劇的対立に基づく思考様式を具体的現実に適用した例の一つにとどまる。
 上記のソレル理解を前提とし、本報告は彼のコルネイユ観を検討する。ギリシア悲劇について記述するなかでアイスキュロスとエウリピデスの作品を対置したソレルは、前者にコルネイユを接近させて称揚し、後者にラシーヌを接近させて批判した。彼がいかなる点に着目してコルネイユをアイスキュロス的、ラシーヌをエウリピデス的としてそれぞれ図式的に理解するに至ったかを論じることは、その叙事詩/悲劇観の内実をより詳細に把握するうえで大きな意義をもつ。さらに、コルネイユが第三共和政初期において重視されており、ソレル自身もまたこの状況を強く意識していたことを確認するなかで、叙事詩/悲劇に由来するペシミスム的価値の同時代フランスにおける実現への期待がコルネイユの劇作の受容に託されたことが明らかとなる。

新沼智之「19世紀ドイツ演劇におけるマイニンゲン劇団の伝統と新しさ」

 19世紀後半の西洋の演劇界で、それまで全く無名だったザクセン=マイニンゲン公国の宮廷劇団(マイニンゲン劇団)が突如として最も有名な劇団になる。劇団を率いたマイニンゲン公ゲオルク2世(1826~1914)はその莫大な財力と圧倒的な権力で、戯曲に基づく演技のアンサンブル(群衆場面の処理に象徴される)と美術(時代考証の施された舞台背景と衣裳と道具類)とによる統一的な舞台上演を実現し、また劇団のヨーロッパ・ツアー(1874~90)を通してアンドレ・アントワーヌやコンスタンチン・スタニスラフスキーら次世代の重要な演劇人たちに対しても大きなインパクトを与えて近代的な演出家の最初の人とされるようになった。
 マイニンゲン劇団のこうした仕事については、早稲田大学演劇博物館による世界の演劇博物館調査・研究・交流プロジェクト(2003)で紹介されたのが日本における最も詳細な情報で、演劇史において非常に重要事項とされながらもあまり論じられてこなかった。本研究発表では、そのマイニンゲン劇団の仕事を、ロマン主義、歴史劇の流行、活人画、群衆ダイナミズム、ヨーロッパ・ツアーなどをキーワードとして19世紀ドイツ演劇の流れの中に位置づけつつ論じたい。

発表者プロフィール

  • 上田 恒友(うえだ こうすけ)
    • 東京大学法学部卒業(2022年3月)、同大学院法学政治学研究科博士前期課程修了(2024年3月)後、同博士後期課程進学。
      公刊論文として「ソレルの古代ギリシア的英雄主義ーー『ソクラテス裁判』における道徳・法・科学の政治的布置」(『国家学会雑誌』138巻5・6号)。
  • 新沼 智之(にいぬま ともゆき)
    • 玉川大学 芸術学部 演劇・舞踊学科 准教授。歴史的にはドイツを中心とした西洋演劇の近代化プロセスを追いつつ、演者と観客の関係性(演技とその環境を含めた上演)について研究している。研究業績については玉川大学研究者情報(UNITAMA)を参照。

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  • 基本的に西洋演劇研究を軸としつつも、比較の観点から広く演劇現象全般を見渡すという姿勢を貫いています。国際的な意識を持って活動する国内・国外の演劇人・研究者たちを招いて、意見交換をする場も設けています。

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