西洋比較演劇研究会 2023年7月 第230回例会のご案内 | 日本演劇学会

西洋比較演劇研究会

研究会からのお知らせ

西洋比較演劇研究会 2023年7月 第230回例会のご案内

公開日:2023-06-21 / 更新日:2023-06-21

  • 日時: 2023年7月8日(土)14:00-18:00
  • 会場: 成城大学 3号館1F 312教室  
    • Zoomリンクを前日に会員メールでお知らせします。7日夕刻までに届いている様子がない場合は、次のメールアドレスまで問い合わせください。y3yamash★seijo.ac.jp(★をアットマークに換えてご送信ください)

1.研究発表 14:00- 15:50
寺尾恵仁「言語のトランスカルチュラリティ ―鈴木忠志『廃車長屋のカチカチ山』に見る権力構造の乗り越え」

2.講演+議論 16:10- 17:30
藤崎周平 「演劇研究のアリーナを考える」

発表要旨

寺尾恵仁「言語のトランスカルチュラリティ ―鈴木忠志『廃車長屋のカチカチ山』に見る権力構造の乗り越え」

 鈴木忠志演出『廃車長屋のカチカチ山』(2009)では、外国籍の俳優すべてが日本語で台詞を発語した。この上演は、芸術集団における形式性を突き詰め、それによって人間集団の差別的構造を説得的に示してきた鈴木の新たな試みとして注目に値する。新劇をはじめ一般的な台詞劇においては、言語は原則として内容を伝達する手段であり、言語的権力関係は意識されることが少ない。それに対して、この上演で外国籍の俳優が発する日本語は、どれほど美的に形式化されたとしても、日本語を母語とする観客にとって異物として響く。それは演出家と俳優、母語話者と非母語話者、マジョリティとマイノリティといった関係性における差別構造を感覚的に示す仕掛けであると同時に、そうした構造に抵抗する可能性をも示唆する。ロシア人俳優が演じた「ロシアの兎」の振る舞いは、日本という言語文化圏におけるマイノリティの「擬態」(ホミ・バーバ)であると同時に、歌謡曲などによって成り立つ情緒的共同体の危うさをも容赦なく暴き出す。「ロシアの兎」による「日本の狸」の理不尽な成敗は、言語的・文化的マジョリティによる理不尽な暴力性の戯画でもある。こうした構造は、多言語を並列することによって言語的平等性を獲得しようとするインターカルチュラリティの問題を批判的に乗り越え、自己と他者の差異を前提とした越境的文化関係すなわちトランスカルチュラリティの優れた実践と言える。

藤崎周平 「演劇研究のアリーナを考える」 

 コンプライアンスの順守が社会の課題とされる中、演劇研究及び演劇製作の場においても、さまざまな問題が可視化されるようになってきました。研究機関でいえば、研究費の不正使用、教育の場の力関係やジェンダー差から生ずるハラスメントなどです。また、人工知能を用いた論文の作成なども喫緊の課題となるでしょう。演劇製作の現場でいうなら、#Me Too運動の展開によって興行界のハラスメントが社会問題となっています。それらの多くは、これまで大学や組織内で隠蔽されてきました。その反動もあるのでしょうか、現在ではSNSによって取り上げられ、デバイスに記録された事象は、一瞬にして拡散し、その挑発的な見出しが衆目にさらされることとなって、そこから二次被害も生じています。

 そもそも、私たちが研究の対象とする「演劇」には、一般常識を乗り越えたり、社会における力関係を再現し、ジェンダーを含めた他者との差異をデフォルメして表現する部分があります。演劇人(実践者、研究者)は、それらを当然のこととして受け入れてきたわけです。特に、実践者には演劇の持つ力学的な構造が演劇倫理として内在化されています。その倫理は明文化されたものではなく、制作過程の作業場や、劇場というブラックボックスの中で伝わってきたものです。それは研究機関も同様です。

 私たちは、社会の多様化も考慮しながら、私たちの場を含め、過去の作品を見直し、今後を考察していく必要があるのではないでしょうか。

  • 登壇者プロフィール
  • 寺尾恵仁(てらお えひと)
    • 日独現代演劇研究。2022年ライプツィヒ大学に1960年代日本演劇の俳優論を歴史学・人類学的観点から論じる博士論文を提出。アスブ企画所属俳優・ドラマトゥルク。北星学園大学専任講師。共著に『文化を問い直す』(彩流社)。
  • 藤崎周平(ふじさき しゅうへい)
    • 日本大学・非常勤講師。研究分野:演技方法論、俳優教育について。
    • 主な業績:単著「新演技の基礎のキソ」(2013)、ほか。主な論文に「演劇の「専門」学科における「基礎」教育をめぐって」日本演劇学会紀要44(2006)「俳優と役の関係の考察」韓国演技学会「演技研究」(2009)「竹内敏晴のレッスンを検証する」日本大学芸術学部芸術研究所紀要2022年号(2022)ほか。
  • 西洋比較演劇研究会

  • 基本的に西洋演劇研究を軸としつつも、比較の観点から広く演劇現象全般を見渡すという姿勢を貫いています。国際的な意識を持って活動する国内・国外の演劇人・研究者たちを招いて、意見交換をする場も設けています。

  • 西洋比較演劇研究会について

  • 例会発表募集

  • 研究会機関紙『西洋比較演劇研究』

  • J-Stage『西洋比較演劇研究』

  • PAGE TOP PAGE TOP