西洋比較演劇研究会 2023年12月 第232回例会案内 ※オンライン併用 | 日本演劇学会

西洋比較演劇研究会

研究会からのお知らせ

西洋比較演劇研究会 2023年12月 第232回例会案内 ※オンライン併用

公開日:2023-12-11 / 更新日:2023-12-11

  • 日時: 2023年12月16日(土)14:00-18:00
  • 会場:明治大学 グローバルフロント3階4031教室 【会場は成城大学ではありません!】
    • Zoomによるオンライン併用開催となります。日が迫りましたらZoom情報を会員メールでお知らせします。案内が15日夕刻までに届いている様子がない場合は、niinuma★art.tamagawa.ac.jp(★を@に代えて)まで問い合わせください。

プログラム
(1)研究発表 14:00~15:50
 井上優「安藤鶴夫「悪縁」(1947)から考える戦後日本の『ロミオとジュリエット』受容」
(2)研究発表 16:00~17:50
 川野真樹子「宝塚少女歌劇におけるオフィーリア表象――戦前の作品を中心に」

発表要旨

(1)井上優「安藤鶴夫「悪縁」(1947)から考える戦後日本の『ロミオとジュリエット』受容」

 演劇評論家で直木賞作家でもあった安藤鶴夫(1908-1969)は、1947年、雑誌『苦楽』八月号に「西洋辻講釈 悪縁」という小品を発表する。タイトルからは全く想像がつかないが、この作品は、一人語りの体裁でシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の物語をなぞったものである。だが、作家安藤鶴夫は、実在する席亭とそこに出入りする芸人を描いた『巷談本牧亭』(一九六三年に直木賞を受賞)のように、主に話芸や伝統芸能を素材とする創作等で知られており、その安藤と『ロミオとジュリエット』を積極的に結び付ける線はにわかには見えてこない。ただ、調べていくと、「我々の心をゆさぶってくる健康な青春物語(『ロミオとジュリエット』)を、戦後の日本人が受け入れるのに、意外と時間がかかっている」(酒井敏「日本におけるシェイクスピア――「ロミオとジュリエット」上演史をめぐって」)という、割と流布している言説にもかかわらず、『ロミオとジュリエット』は、意外と広く当時から親しまれていたことがわかる。本発表では、安藤鶴夫を出発点に、一般に“空白”とみなされがちな戦後直後の『ロミオとジュリエット』受容の実際を探ってみたい。

(2)川野真樹子「宝塚少女歌劇におけるオフィーリア表象――戦前の作品を中心に」

本発表では、戦前の宝塚少女歌劇による歌劇『オフィリヤの死』(1926)、およびグランギャラ『娘八景』(1932)を取り上げ、少女歌劇におけるオフィーリア像について検討する。『オフィリヤの死』は坪内士行の作・演出で、オフィーリアの狂乱を中心に『ハムレット』を再構成したもの、『娘八景』は当時の宝塚少女歌劇の演出家8名による合作レヴューで、岸田辰彌による「オフィーリア」の場面を含む、歴史上や物語上の8人の女性が登場するものである。

 この二作においては、オフィーリアの狂気の原因が周囲の推測で語られる原作とは異なり、オフィーリア自身の視点から彼女の悲劇、つまり恋人によって父が殺された嘆きが語られる。特に『オフィリヤの死』では、オフィーリアが狂気の中で見る幻影の中で、ハムレットがポローニアスを殺す場面を目撃する様子が描かれる。一方『娘八景』では、彼女が父の死を目撃する演出はないものの、狂気の彼女が父とハムレットの幻覚を見ている様子が描かれる。このように、オフィーリアの視点から彼女の悲劇を描いたとき、彼女の狂気の要因として、父と恋人とがほとんど同じ比重で語られることは、同時に彼女とハムレットとの間の恋愛感情により強い興味を向けることとなる。実際、いずれの作品においても、ハムレットはオフィーリアの「恋人」あるいは「恋」の相手として明言され、恋愛物語としての筋が前面に出るために、主筋のハムレットの復讐譚は後景化する。このように、二人の恋に強く言及する傾向は、戦後1949年に堀正旗の演出で上演されたグランドレヴュー『ハムレット』においても顕著である。

 しかし、いずれの特徴も、少女歌劇に特有のものではなく、近代日本におけるオフィーリア表象の伝統と言える。たとえば父の死体を目撃する演出は川上音二郎一座によって初演された山岸荷葉・土肥春曙による翻案『ハムレット』(1903)や1918年に士行自身の改作・主演・演出で、帝国劇場で上演された『ハムレット』にも見られる。また、恋愛の要素を強調する点も川上一座ですでに試みられていた。そこで本発表では、戦前の宝塚少女歌劇で上演された『ハムレット』の翻案作品を中心として、少女歌劇化されたオフィーリアがいかに近代日本におけるオフィーリア受容をなぞるものであったのかを明らかにしたい。

  • 発表者プロフィール
  • 井上 優(いのうえ まさる)
    • 明治大学文学部教授。演劇理論、西洋演劇史研究。近年は岩田豊雄の業績の再評価などを研究している。明治大学のシェイクスピア上演(明治大学シェイクスピア・プロジェクト)をコーディネイターとして統括・指導。国際演劇評論家協会日本センター会員。日本演劇学会理事。主要著作として『演劇の課題Ⅱ』(共著、三恵社、2015年)、最近の論文に「岩田豊雄「演劇皆無に對する感想」(一九三三)を読む」(2020年)、「岩田豊雄の中のシェイクスピア――1955年 福田恆存演出『ハムレット』成立の一背景」(2020 年)。
  • 川野真樹子(かわの まきこ)
    • 明治大学大学院文学研究科演劇学専攻博士後期課程所属。専修大学等兼任講師。専門は近代日本におけるシェイクスピア受容、特に『ハムレット』における女性表象について。主な業績:「歌舞伎版『ハムレット』におけるオフィーリアの狂気の変遷 -山岸荷葉『沙翁悲劇はむれつと』(一九〇七)の大阪上演を中心に- 」、『文芸研究』第146号、明治大学文学部、2022年。「坪内士行のガートルードとオフィーリア―帝劇『ハムレット』(1918)における〈自然さ〉をめぐる試み―」、『演劇学論集』73号、2021年。「二人の「オフィーリア」――堀正旗『ハムレツト現代に生きなば』(一九三〇)における女性像」、『シェイクスピアとの往還――日本シェイクスピア協会創立六〇周年記念論集』(共著)、研究社、2021年。
  • 今後の予定
    • 1月例会は2024年1月6日(土)に開催予定です。研究発表1本と合評会を行う予定で準備を進めています。合評会では小田中章浩著『戦争と劇場 第一次世界大戦とフランス演劇』(水声社、2023年)について合評いたします。

担当者のミスでウェブサイト掲載が送れました。ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

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  • 基本的に西洋演劇研究を軸としつつも、比較の観点から広く演劇現象全般を見渡すという姿勢を貫いています。国際的な意識を持って活動する国内・国外の演劇人・研究者たちを招いて、意見交換をする場も設けています。

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