プラハ・カドリエンナーレ2023  〜日本の学生たちの取組みについて〜 | 日本演劇学会

プラハ・カドリエンナーレ2023  〜日本の学生たちの取組みについて〜

公開日:2023-11-29 / 更新日:2023-12-02

 

大阪芸術大学 堀田充規

プラハ・カドリエンナーレ、通称PQと呼ばれる国際展覧会をご存知でしょうか?

20世紀を代表するチェコスロバキア(当時)の世界的舞台美術家ヨセフ・スヴォボダやフランチェスク・トレスター、イジー・トルンカらのサンパウロ・ビエンナーレでの数々の成功のあと、舞台美術家の仕事に特化した国際美術展として1967年から開催。社会主義共和国時代から始まり、第1回開催の翌年にはプラハの春、ワルシャワ条約機構による軍事介入、その後の暗い時代を経てビロード革命、チェコスロバキア解体と数々の政治変革の中でも開催し続けた、舞台美術のオリンピックとも呼ばれる国際美術展です。

4年毎に開催されるPQ、2023年度はコロナ禍もあり開催が危ぶまれましたが、無事にチェコ共和国の首都プラハで6月8日から11日間に渡って開催されました。始まりは前述したように舞台美術家のデザインワーク、つまりデザイン画や模型作品、舞台衣装のデザイン画や現物の衣装などの展示を中心に開催されましたが、近年は各国から集まった舞台芸術の様々なジャンルの関係者、アーティストやパフォーマー、演劇を学ぶ学生たちがそれぞれの展示空間を演出、会場以外でもプラハの旧市街やイベント会場で独自のパフォーミングを行うなど、セノグラファーとパフォーマーの祭典として多くの来場者を楽しませるユニークなコンペ形式の国際美術展となっています。数々のプロジェクトがあって、全てのプログラムを体験するのは難しいほど盛り沢山な国際展です。

1967年の第1回の参加国は20カ国、以来毎回参加国と来場者も増え続けて、欧州で開催される展覧会の中でも評価の高い国際展として知られるようになっていますが、残念ながら日本国内においてはまだまだ広く一般的には認知されていない実状があります。今回はロシアとウクライナが戦争中ということもあり、ロシアやベラルーシなどの常連国が不参加、59カ国での開催でしたが、ウクライナは戦時中でもしっかり独自の展示を行なっていました。日本は第1回目から参加、組織として日本舞台美術家協会JATDT(前身は日本舞台テレビ美術家協会)が窓口となって参加するのは第2回目から。余談ですが、第1回目は日本から 唯一人、Shogoro Motomiya氏が出品したというPQ本部の記録があり、また日本のキュレーターとしては Tsuneari Fukuda氏、劇作家の福田恒存が参加していたことが最近判明。当時の二人は多摩美術大学で教鞭をとる間柄でもありました。

PQ学生部門に参加するようになったのは第3回目からで、はじめに武蔵野美術大学、多摩美術大学が参加し、やがて玉川大学、日本大学、大阪芸術大学の現在のレギュラー校が定着しました。学生部門の展示は各大学が自由に作品を持ち込むことが多く、約5m×5mほどのブースに参加校のエリアを決めて、デザイン画や模型、衣装展示をすることが標準でしたが、過去に1度、参加校が1校になる事態が起こり、その時は大阪芸術大学だけで紙で制作した『オズの魔法使い』の登場人物4人の展示と空間作りを行いました。、またPQ2015は武蔵野美術大学と大阪芸術大学の学生達だけでパフォーマンス展開を行なった事例があります。

PQに参加するには実状として舞台美術家協会のフォローなくして参加が難しいこと、予算や仕込みやバラシについても多くの制約があること、また21世紀に入ってからは開催が6月で日本の学生は前期授業期間の最中であることなどの条件のために参加には色々と問題を孕んでいますが、熱意ある教員と学生達で毎回それを乗り越えて参加しています。今回の参加については日本舞台美術家協会PQ実行委員会がECR(Exhibition of Countries and Regions)、SE(Student Exhibition)の二つの部門にエントリー、プロの舞台美術家部門と学生部門に分かれて、紆余曲折がありながらも、1年余りをかけて常連校の武蔵野美術大学、多摩美術大学、玉川大学、日本大学、大阪芸術大学が開催にこぎ着けました。ここでは学生部門の取り組みについてご報告致します。

何度目かの開催からPQ本部から各国に共通テーマが投げかけられるようになり、PQ2023はパンデミックという共通体験をした世界に『RARE』というテーマを発信。コロナ禍を体験した我々が表現するユニークで生々しい現実や、この先の世界と劇場の姿を想像するよう呼びかけられました。コロナ禍中にPQ本部が動き始めて、開催1年前に展示会場が発表されました。そこは今まで開催されたことのない元中央市場と言うプラハ旧市街から少し離れた場所で、広い敷地の中に点在する元市場の建物群の3箇所にナショナル部門各国の展示ブース、そして学生部門の会場はなんと屋外展示との連絡が届きました。今までは歴史的建造物の産業宮殿や国立博物館、旧市街の建物の中での展示でしたが、PQ史上初の屋外展示!! 11日間の開催期間中、屋外に設置して雨風に晒されても可能な展示ブースを造らなくてはなりませんでした。輸送の問題、展示物の予算問題、現地での仕込みと撤去の問題など数多くの問題を孕みながらのスタートでしたが、キュレーターに武蔵野美大の太田雅公氏と玉川大学の二村周作氏が引き受けて下さり、参加校教員と舞台美術家協会実行メンバーで学生にとってより良い方法を模索、展示ブースを作った上で各大学パフォーマンスを行うことで纏まりました。パフォーマンスについては各大学の教員指導の下で行うとして、ブースデザインは参加校とその他の大学生にも呼びかけてコンペ形式で行うことに決定しました。

ブースデザインコンペについては実行委員の教員から学生に告知、舞台美術家協会ホームページ等からも広く告知、興味ある学生なら誰でも参加できることを伝えました。日本の学生テーマは『connect、繋がり』。2022年7月にオンライン説明会で参加大学の教員と参加希望学生100名余りが繋がり、今までない他大学と学生達の交流の第一歩が始まり、そこで個人エントリーではなくチーム編成してデザインしてもらうことを伝えました。常連参加大学以外にも参加する学生もいて、結果的に7つの大学の学生達が13チームに分かれ、パフォーマンスできる屋外ブースを考える、ということで取り組んでもらいました。約一ヶ月余りの構想期間の後、オンライン上で各チームのプレゼンを実行委員の教員らで視聴、コメント発信、その後書類審査で慎重に審査しました。結果、混成チーム(日本大学+静岡文化芸大+明治大学)の作品が選ばれて、現地でどのように設置するか、材料や予算面をどうするか、などを各大学教員や舞台美術家協会実行メンバーで試行錯誤して決定していきました。予算面や諸々問題点があって選ばれなかったチームもとても良い経験を得て、7つの大学の学生と教員が一同に繋がり、合評を受けた経験は貴重な時間だったと思います。学生チーム13の作品は舞台美術家協会ホームページからご覧いただけます。https://www.jatdt-pq2023.com/se

各国学生ブースの様子。左手奥に日本の学生の展示スペースがあります

ブースの仕込みには鉄骨枠を製作してくれた現地業者と渡航先発隊の玉川大学や武蔵美、日大のメンバーが小雨降る中で参加。コンペで優勝したチームの明治大学からのただ一人の参加者も個人でプラハに渡航して仕込みを経験、他大学の学生や教員とも交流を持って有意義な時間を持ったようでした。こういった経験は学生にとっては座学で学習するものとは違う忘れ難いものになるでしょう。後発メンバーも成田と関空から旅立って、PQオープニングの賑やかなイベントを体験し、各国の展示ブースや作品、パフォーマンスを目の当たりにして大いに刺激を受けました。そして翌日から2日間に亘り、参加の5大学8チームが日本ブースの前で、または学生展示エリアでパフォーマンス展開を無事に敢行しました。

プログラムは下記のとおりです(上演順)。

  • 『祭りは祀りMatsuri is Matsuri』『花忍 Hanashinobu』『Grab an OMIKUJI』(大阪芸術大学)
  • 『贋作 百鬼夜行』(日本大学芸術学部)
  • 『HOTTSUKU』(多摩美術大学)
  • 『ME & ME』『BONCE!!』(武蔵野美術大学)
  • 『My Place』(玉川大学&カレル大学)

各大学のパフォーマンス作品は15分前後の上演で、ダンスパフォーマンスやコスチュームパレード、創作演劇や来場者と交流を図る演目もあり、学生達はかけがえの無い体験を得ました。諸々の事情でパフォーマンス上演は2日間でしたが、準備にほぼ1年をかけたほか、各大学の教員は月2回のペースでオンライン会議を行いましたが、これは今までに無かった交流でコロナ禍の良き効用と言えます。https://pq.czのサイトPhotos Student Exhibition に各国学生ブースとパフォーミングの模様が記録されているのでご覧下さい。

会期後、無事に現地でのバラシ等を終えて、帰国後に実行委員メンバーによるPQ2023の報告会が9月上旬チェコ大使館内のチェコセンターにて開かれました。チェコセンターも日本でのプラハ・カドリエンナーレをもっと広く知らしめたいと言うことで、我々の報告会に期待して共同主催となりました。第1回から参加しているにも関わらず、チェコ大使館と深く交流を持つことが無かった実状がありますが、今回交流を持つことが出来て次のPQへの弾みにもなればと思います。残念ながらPQ2023Awardには日本は選出されませんでしたが、オリンピック同様に参加することに意義があると信じて、今後も参加継続出来ることを願っています。

PQ2023の詳細はhttps://pq.czをご覧下さい。大変充実したサイトで過去の記録も詳しく、6年前からはYouTubeで第1回からの動画が見ることが出来るようになっていますが、驚くほど再生回数が少ないのはこのジャンルの研究者や関心ある人が少ないのでしょうか?是非演劇学会の方々にも興味を持ってご覧頂きたいですし、次のPQ2027を体験する学会員が増えることを願ってここにPQ2023の学生部門の報告を終えます。

(追記:参加者・団体の記載に漏れがあったため加筆修正いたしました。関係者の皆様には大変失礼いたしました。【2023年12月1日】)

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